「ファイナルファンタジーXVI」はダークでグロテスクだが、その根底にはシリーズの伝統があった:ゲームレビュー

6月22日にスクウェア・エニックスから発売された新作RPG「ファイナルファンタジーXVI」は、このシリーズとしては珍しく残虐な描写が多い、挑戦的な作品だ。しかしその根底には、シリーズが数十年にわたって築き上げてきた伝統がしっかりと残されていた。
「ファイナルファンタジーXVI」はダークでグロテスクだが、その根底にはシリーズの伝統があった:ゲームレビュー
© 2023 SQUARE ENIX CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

チョコボが殺されるところを高画質の映像で見てしまった。スクウェア・エニックスの新作ファンタジーRPG「ファイナルファンタジーXVI」序盤のとあるシーンでは、おなじみの巨大な鳥がいきなり剣で斬られてしまうのだ。シリーズのマスコットとも言えるチョコボが惨たらしい鳴き声を上げて倒れ、血溜まりのなかで翼を動かしながら痛々しい死を迎える。

「チョコボGP」でレースをしていたころや、「ファイナルファンタジーVII」の複雑なミニゲーム「チョコボファーム」で可愛らしい家畜として飼われていたころからすると、ずいぶんとテイストが違う。「ファイナルファンタジーXVI」のチョコボは翼をもった戦士なのだ。プレイヤーを乗せて戦争の傷跡が残る景色のなかを駆け回ってくれるし、大量虐殺の場面に出くわしたなら(このゲームでは何度か起こる)、容赦無く殺されてしまう。

Screenshot from the game, 'Diablo IV', depicting a battle between characters on a steep cliff
前作「ディアブロ III」から11年の時を経て発売された「ディアブロ IV」は、シリーズの伝統を受け継ぐファンタジー大作だ。新鮮さには欠けるが、シームレスなゲーム体験のおかげで、気がつくとプレイしている。

このシーンは本作のもつ雰囲気をよく表している。「ファイナルファンタジーXVI」は残酷さと懐かしさを併せもったゲームなのだ。これまでのファイナルファンタジー作品は、ほとんとがティーン層を意識したクリーンな作品で、戦争がもたらす影響を単純化している場合が多かった。しかしこのゲームには前作までの比較的ライトなトーンと決別しようとする確固たる意志があり、無骨な世界観のなかで臓物が飛び散る。

初めのうち、こうした「ハッピーツリーフレンズ」を参考にしたような描写は、シリーズを“成熟”させようとする無茶な試みに思えるかもしれない。しかしひとたび「ファイナルファンタジーXVI」の暗いトーンに慣れてしまえば、血まみれで重々しい風格の奥に、これまでのシリーズとの深い繋がりを感じられることだろう。

シリーズの伝統から離れた挑戦的な作品

本作の主人公であるクライヴは、魔法を使う特殊部隊の一員として戦場での暗殺任務を請け負う、百戦錬磨の人物だ。プレイヤーはクライヴの視点を通して、まず本作の世界観や設定についての説明を受け、その後タイムスリップしてクライヴの過去を追体験する。つまり、クライヴの人物像を形づくっている、若き日のトラウマを辿っていくことになるのだ。

フラッシュバックのなかに登場するのは血まみれのチョコボだけではなく、無惨に斬り殺される兵士たちや政治的な衝突も描かれる。そしてクライヴの人生を変えてしまう悲劇的な出来事が起こり、彼が苦しみに泣き叫ぶ場面を目撃することになる。もちろん、話が現代に戻ってもこうした残酷さは変わらない。

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本作のストーリーは、クライヴの復讐劇がふたつの大国間で激化する戦争と交差することで動いていく。ふたつの国はそれぞれ中世のヨーロッパと北アフリカをモデルにつくられた魔法国家だ。戦乱の世を舞台に、プレイヤーは数えきれないほどの人間とモンスターを倒していくことになる。

そして、返り血を浴びたキャラクターたちが各々の目的について語り合うムービーを通して、プレイヤーはこの世界に存在する巨大な陰謀を解き明かしていく。本作のストーリーには、必ずしも的確であるとはいえないものの、実世界に存在するさまざまな社会問題──奴隷制度や自由意志の有無、さらには気候危機や終末戦争なども織り込まれているのだ。

戦闘システムにおいても、本作はシリーズの伝統であるターン制システムから大きく離れている。これまでのシリーズにもアクション重視の戦闘システムを採用した作品はあったが、「ファイナルファンタジーXVI」の戦闘システムはむしろ「デビルメイクライ」や「ゴッド・オブ・ウォー」のようにボタンを連打して戦う作品のそれと似ている。

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クライヴの剣術と魔法攻撃は、ゲームが進行して新たな能力を得るたびに複雑になっていく。戦闘に入るとカラフルなエフェクトが飛び交い、重い斬撃の応酬が繰り広げられる。ここ最近のファイナルファンタジーでおなじみとなっていたメニュー選択型の戦闘システムとまったく違うわけではないが、大きなスタイル変更であることには変わりなく、本作の戦闘をより緊迫感のあるものにしている。

根底にあるのはFFらしいドラマ

戦闘システムと物語のトーンがここまで刷新されているのであれば、本作はスピンオフ作品として捉えられるべきなのではないかと疑問に思う人もいるだろう。しかし本作の戦闘システムに慣れ、長いプロローグにも思えるような序盤のストーリーを終えるころになると、その答えは自ずと明らかになる。

「ファイナルファンタジーXVI」のダークな雰囲気は、実は表面的なものに過ぎないのだ。グロテスクな描写や罵声、政治的なあれこれの奥には、シリーズが何十年にわたって作り上げてきたテーマに通ずるものがある。希望に満ちた、世界を崩壊から救うストーリーが見えてくる。

本作にはこれまでのシリーズと違って、裸体やぐちゃぐちゃの死体も登場する。しかし本作は、性的な表現や暴力的な描写を深くまで探究しようとする作品ではない。こうした表現はあくまでも“飾り”なのだ。本作のストーリーでは戦争や体系的な差別、権力者たちの恋愛などが描かれる。しかし本作の主題はそこにはない。テーマとしてあるのはもっと普遍的な何かだ。

本作のストーリーは実世界の問題にも言及しており、宗教的な信仰が独裁的な権力を生んでしまう社会の構造がなかなか上手く描かれている。しかし同時に、こうした問題提起は非常に曖昧であり、魔法や神的なキャラクターが登場することもあって、メタファーとしても少々弱くなってしまっている。

「ファイナルファンタジーXVI」のよさはむしろ、ほかのシリーズ作品と同じように、仲間との友情や平等といったありきたりなものへの讃歌を、感情に訴えかけるドラマへと昇華しているところにある。

ゲーム内に広がる世界の壮大さと絵画的な美しさもまた、プレイヤーがストーリーに没入するためにひと役買っている。人間の死体や血に飢えたモンスターがはびこる場所ではあるが、ここにいるとこの世界を守らなくてはいけないという使命感が、ゲームに説明されるまでもなく湧いてくるのである。

加えて、セリフ回しと声優陣の演技も全体的にレベルが高く、特にクライヴの声優ベン・スターの演技はキャラクターにエネルギーと深みをもたらしている。こうした点は、本作のあらすじを説明しているだけでは伝わらないだろう。しかし「ファイナルファンタジーXVI」をプレイしていて特に印象に残ったのは、こうした細かなディテールだった。

一部のキャラクター造形には疑問が残る

「ファイナルファンタジーXVI」の残虐さや戦争の描写を社会問題と繋げて真剣に語ろうというのは野暮な話だ。本作の“成熟した”表現は、あくまでもゲームのスタイルを確立するためのツールであり、本来はそれ以上の意味や含みをもたないものだ。これは何も悪いことではない。人間の暗部に目を向けようとする作品ほど、生の美しさを表現できることだってあるからだ。

本作ではクライヴの復讐劇を通じて、平等と平和をもって残虐な戦争を終わらせる物語が描かれる。そしてそこには、クリーンさを追求してきたこれまでのシリーズ作品にはない“重み”がある。

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一方で、「ファイナルファンタジーXVI」は著名なファンタジー小説やテレビ番組から影響を受けすぎている面もある。スタイルを真似ようとするあまり、それらがストーリーと整合性を取れなくなっていることもあるほどだ。

特に「ゲーム・オブ・スローンズ」の影響はそこかしこから見受けられ、パクりと言われてもおかしくないようなレベルだった。マップ画面は「ゲーム・オブ・スローンズ」のオープニングで登場するジオラマに似ているし、ストーリーの展開やキャラクターの造形、舞台となる国々の文化的特徴も似てしまっている。

他作品の影響が高じたせいか、「ファイナルファンタジーXVI」は女性キャラクターの造形がかなり酷い。ずる賢い悪女や、男を誘惑する小悪魔的な女性、清純で優しいアイドル的な女性など、どれもダークファンタジーで見飽きたようなキャラクターだ。シリーズでは珍しく性的な描写もある本作だが、それらは複雑な性の表現というよりは少年的なファンタジーであると言ったほうが正しいだろう。肌の露出が多いからといって、必ずしも“成熟した”描写であるとはいえないのだ。

本作のプロデューサーである吉田直樹は、今年の初めに『WIRED』のインタビューで「このシリーズにはさらなるポテンシャルがあることを証明したい」、「少年たちが世界を救うだけではない作品にしたい」と語っていた。そういう意味では、「ファイナルファンタジーXVI」は大いに成功したと言える。本作は、暗いトーンによってファイナルファンタジーのテーマを表現することの可能性を見せてくれた。もっとも、もう少し洗練させることはできたかもしれないが。

「ファイナルファンタジーXVI」はいわばひとつの実験だ。シリーズの伝統を保ちながら、その可能性をいまよりもさらに広げるための実験として、大きな成功を収めている。つまづくこともあるが、新しく仕立てた血まみれの服を上手く着こなせていると言ってよいだろう。罪のないチョコボが犠牲になったことも、本作の指針を表明するためには必要なことだったのかもしれない。いくつかの例外を除けば、本作はファイナルファンタジーシリーズにおける最高傑作のひとつだ。

WIRED US/Translation by Ryota Susaki)

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